シロクロデイズ〜sixth day〜
第六話「sixth day」
どうやら日曜の朝、という体内時計が自分の中に設置されているらしい。
目が覚めたのは朝の十時だった。
普段の朝とは時間差が激しいせいか、まだ頭の中が眠っている。
「……ねむ」
重い体をゆっくりと起こすと、体全体に痛みが走り顔がゆがむ。
(そういえば昨日、青木葉の仲間にボコボコにされたんだったな)
切れ、すでにかさぶたになっている額の傷を指腹で撫でつつそんなことを考え、カーテン越しから光の射している窓を見つめる。
ぼんやりと、働かない頭をそのままにしばらく見つめていると、辺りに空腹を告げる音が鳴り響く。
そこでようやくベッドから下り、のっそりと、まるで亀のような動きで冷蔵庫まで辿り着いては中を覗き込み溜め息をこぼす。
大好物のバナナがない。
これは大問題だ。
(昨日、握り潰したあれが最後だったか)
もったいないことした、ともう一度溜め息をこぼした俺は買い物に行こうと、携帯と財布をポケットに家を出た。
今にも雨が降りだしそうな曇り空だ。
さっきカーテンから光がこぼれていたのは、雲と雲の隙間から差し込んだ光らしい。
なんとなく浮かない気分のままビニール傘を手に主婦に混じってスーパーの自動ドアをくぐる。
買い物カゴを手にいつものようにバナナを一房、他になにかいいものがないかと店内をぐるりと一周すると、赤嶺が好きそうな限定のイチゴミルクが売っていたため、それもカゴに入れてやる。
もちろん、あとでお金は請求するけど。
他にめぼしいものが見つからなければそれらだけをカゴに、レジに並び会計を済ます。
袋が無料だったことに少しだけお得感を覚えながら、再びアパートに向けて歩き出そうとすると雨が降りだしてきていることに気がついた。
傘を持ってきて正解だったな、とそれを開き傘に雨が当たる軽い音を聞きながらアパートへ戻った。
バナナをくわえたままパソコンの前に座ってメールをチェックしている。
相変わらず『報酬は後払い』を希望する奴らが多くて、呆れてしまう。
「報酬は先払いが基本だって教わらなかったんだか」
新しく届いたメールを消していったらほとんど残らなかった。
残ったメールといえば、アイツの弱点を教えろだの、あの人のタイプを教えて欲しいだの。
代わり映えのしないものばかりでつまらない。
金久保の情報を集めたりする、それくらいスリリングのある仕事がもっときて欲しいもんだ。
そんなことを考え、食べ終えたバナナの房はあとで捨てようと脇に。
モニタから視線を外し、なんとなしにテーブルの上に置いたままの白狐のお面を手に取る。
「シロ……俺はどうすればいい」
本当は情報屋をやめるかどうかまだ悩んでるんだ。
やめてしまったら少ないあの人との繋がりが消えてしまうような気がして。
「……最近、弱くなったな」
自分らしくないと自嘲気味に笑い、再びお面に視線を落とした俺はなんだか無性にシロに会いたくなった。
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