シロクロデイズ〜sixth day〜






 俺たちに会うなとは言われたけれど、シロに会うのはきっと大丈夫だろう。
 病院へ向かう途中、花屋で花を買った俺は徐々に強くなってきている雨を降らしている曇り空を、ビニール傘越しから鬱陶しげに見上げた。



 花が雨で濡れてしまわないように抱え、病院に辿り着くとどこか足早に部屋を目指す。
 そして一つのとびらの前、一昨日ここに来たときもそうだったけれど、中に入るのに勇気がいる。
 高まる気持ちを押さえ込むように深く息を吸い込み、吐き出すのを何度か繰り返してからゆっくりと目の前のとびらを開く。

 すると前回と同じ景色が目の前に広がる。
 花が飾られており、ベッドに人が横になっており。
 唯一、前と違うのは雨が降っているせいで窓が閉じられているということだ。

 抱えていた花を花瓶の横へ、ベッドへ歩み寄っては置かれたままの椅子へと腰を落ち着かせる。
 シロはまだ眠ったままだった。


「……シロ」


 名前を呼ぶと声が震える。
 手を伸ばすとその手が震える。
 それでも手が震えたまま、俺はシロの手を両手で握り締めた。
 まだ温かさが残ってるそれに俺がどれだけ安心したかなんて、きっと眠ってるシロは知らない。


「シロ……ごめん」


 握り締めたそれを自分の額まで持っていき、開いていた目を閉じて、今までの気持ちを込めて謝罪する。


 チームの仲間を騙させてしまったことも。

 シロを裏切り者にさせてしまったことも。

 こうして、三年間も眠らせていることも。


 どれだけ謝罪しても、感謝しても、足りない。


「シロ、しろっ……!」


 こんなにも感情を高ぶらせるつもりなんてなかったのに。
 それなのにシロと出会ってのこの四年間のことを思うと瞼の奥が熱くなり、それが頬を伝う。
 シロと出会ってからも、出会う前からも泣いたことなんてなかったのに、今は涙がとまらない。

 力を込めただけで折れてしまいそうなほど細くなってしまったシロの手を握り直しては、ようやく額から離し伝っていた涙を乱暴に拭う。
 それなのに、どれだけ拭っても涙がとまらない。
 まるでダムが崩壊したみたいだ。


「……なあ、シロ」


 涙を拭うことをやめてしまうと、それは自分の膝にパタパタと落ちていく。
 それすらも気にせず、シロの手を握り締めたままゆっくりと頭を彼の胸の上に置くと、ドク、ドク、と弱いながらも聞こえた心臓の音が心地よかった。


「なあ……シロ。話したいことが、たくさんあるんだ」


 俺は自分がわがままだってわかってる。
 だから、守ってもらったのに、さらに早く目を覚まして欲しいと思うんだ。

 たくさん聞きたいことがある。
 たくさん聞いて欲しいことがある。


「っ……し、ろ」


 だから早く起きて、名前を呼んでくれ。


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