シロクロデイズ〜sixth day〜






 どのくらいの時間そうしていただろうか。
 雨音だけが響く室内。
 ポケットに入れていた携帯が突然、震え出しため驚き勢いよく体を起こす。
 ポケットから取り出し画面を見てみると、どうやら赤嶺からの着信らしい。
 震えている携帯を片手に、未だ目を閉じたままのシロへと視線を移しては空いている手を伸ばし、真っ白なその髪に触れる。
 そして手の中からさらりと髪を落としては、その手で再び涙を拭ってから部屋を出た。

 もう涙が出てくることはなかった。



 病院の外に出ても震え続けている携帯に、それほど大事なようなのかと通話ボタンをスライドさせ耳にあてがう。
 その瞬間、聞こえてきた相変わらずの赤嶺の明るい声に、ふっと笑みが浮かんだ。


『クロちゃん、今どこにいる?』

「今は病院だな。シロの様子を見てた」

『そっか。ならちょうどよかったかもね』

「なにがだ?」


 病院に来る前よりも雨が強くなっているような気がする。
 そのせいで、電話越しから赤嶺のものではない声が聞こえている気がするが、誰のものなのか、そしてなにを言っているのかわからなかった。


『クロちゃんに見せたいものがあるんだぁ。もちろん来てくれるよね?』

「別にいいけど……あ、でもそこに白柳先輩いるのか?」

『いるけど、どうしたの?』

「今日は絶対に会いに来るなって言われたんだけど、いいのか?」


 そう尋ねた直後に訪れる沈黙。
 なにか言ってはいけないことを言ってしまったのかと、心配になり口を開くが先に言葉を放ったのは赤嶺だった。


『大丈夫だよ。むしろ、クロちゃんは来るべきだと俺は思うなぁ』

「それなら、行くけど……今どこにいるんだ?」

『三丁目の空き倉庫、かな』


 一体、どうしてそんなところにいるんだ。






 昨日までは三丁目の空き倉庫には青木葉と、その仲間がいた。
 けれど金久保が仲間を潰してしまったから、あそこにはもう誰もいないはずだ。
 それなのになぜ、赤嶺も白柳先輩もそこにいるんだ?

 なんだか、すごく嫌な予感がする。
 この胸騒ぎが気のせいであることを願いたい。

 傘をさしたまま足早に倉庫へ向かったせいか少しだけ服が濡れてしまったが、そんなことも気にせず倉庫へと通じる目の前のとびらを開くと、まず最初に壁に寄りかかってる白柳先輩が目にとまった。
 とびらが開かれたことに気がついたらしい先輩がこちらに顔を向けたかと思うと、目を大きく見開いた。
 次いで口が開かれたかと思うと、言葉を放ったのは他に俺の存在に気がついたらしい別の人だった。


「あっれー、クロちゃん、いつものあれは?」


 先輩の姿にも、言葉にも被さるようにして横から飛び出してきたのは赤嶺だった。
『いつものあれ』というのはきっと白狐のお面のことだろう。


「いや、病院から真っ直ぐ来たからさ」

「そっか。まあそのままでもいっかぁ」

「おい、赤嶺! なんでここに黒滝がいるんだよっ」


 俺の手首を掴み、引っ張ろうとした赤嶺の体を押し退けたのは白柳先輩だった。


「さっき黒滝に電話してたとき、絶対にここに呼ぶなって言ったはずだよな」

「俺が白柳の言うこと聞くと思う? 俺が言うこと聞くのはクロちゃんか、あの人だけだよ」


 淡々と放たれた、それでいて力強い言葉に白柳先輩は言葉に詰まったらしく、らしくもなく大きな舌打ちをこぼした。
 そんな姿に満足したらしく、わずかに目を細めた赤嶺が再び俺の手首を掴む。


「赤嶺、見せたいものってなんなんだ?」

「きっとクロちゃんも喜んでくれる。もしかしたら混ざりたいって言うかもねぇ」


 ヘラヘラっと笑う赤嶺の歩いていく先へ視線を移すと、なにやら人が輪になっている。
 そして鈍い音が聞こえてくるこれはまさか、リンチか。


「なあ、赤嶺。一体、誰を……」

「クロちゃんの目で確認するといいよ」


 舌がまわらない。
 正常な判断ができない。
 それなのに赤嶺は輪になっていた人たちを退け、俺の背中を押してくる。


 一人の男が倒れていた。

 この倉庫に来たときから、姿が見当たらなくて変だと思っていた。


 なあ、どうしてこんなことになった?

 どうして、いつも綺麗だった金色の髪が赤く染まっている?


 どうして?

 そんなの決まっている。


 全て、俺のせいじゃないか!


「金久保ッ!」


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