シロクロデイズ〜sixth day〜
その後、金久保は検査があるからとその日は病院に泊まることになった。
なんともなければ次の日には退院ができるそうだ。
「いやー、まさか入院中の知らないお爺ちゃんに説教されることになるとは思わなかったなぁ」
「赤嶺が病院の中走り回るからだろ」
「白柳が追いかけなければ走らなかったけどー?」
「お前が逃げなかったら俺も追いかけなかったけどな」
金久保が俺の胸に顔を埋めていた間、どうやらこの二人は『病院内を走り回るなど最近の子供はなっとらん』などと見知らぬ人に説教されていたらしい。
まあ、自業自得だよな。
まだ雨のやまない病院からの帰り道。
俺の左側には赤嶺が、右側には白柳先輩と三人横に並んで歩いている。
しかしその中で傘を広げているのは俺だけだ。
というより、傘を持っていたのが俺だけだった。
「ねー、クロちゃん。もっとそっち寄っていい? 俺の肩濡れるー」
「待て。そんなことしたら俺が傘に入れないだろ」
「いいんじゃないの? 濡れて風邪引いて一週間くらい部屋に閉じこもってればいいと思うなぁ」
「お前な……でももしそうなったら黒滝が看病しに来てくれるんだろ?」
「え、まあ、看病して欲しいなら行きますけど」
「えー、なにそれズルイズルイ! クロちゃん、俺も風邪引いたら来て欲しいなぁ」
騒がしいのはいつものことだと諦めよう。
でも狭い傘に男が三人も入っているこの図はどうにかならないものか。
周りからの視線も痛くて、どこかに穴があったら入りたい気分だ。
「そういえば、二人ともありがとうな」
歩みを進めながら放った言葉に、二人が俺を見たことがわかる。
それでも俺は前方に顔を向けたまま、言葉を続けるために口を開く。
「俺も金久保も、二人の言葉がすごく嬉しかった」
「クロちゃん……」
「本当にありが――うおっ」
突然、左側から衝撃を感じた俺はバランスを崩し右側へと倒れそうになるが、白柳先輩が支えてくれたため倒れることはなかった。
そんな彼にお礼の言葉を口にしてから、衝撃を感じたほうへ顔を向けると赤嶺が俺の体に抱きついていた。
「俺にも言わせて。クロちゃん、ありがとう」
「俺は、なにも」
「黒滝がいたからさらに金久保にひどいことしなくて済んだし、黒滝がいたから……勇気を出して金久保に話せた」
白柳先輩の腕が腰にまわされる。
赤嶺から彼へ顔を移すと、優しげな瞳が俺を見つめていた。
「先輩……」
「だから、俺からもありがとうな」
言葉に詰まってしまった。
まさか二人からそんなことを言われるなんて思ってもみなくて。
傘の柄を握っている手がわずかに震えた。
「っ……先に行きます」
動揺している姿を見られたくなくて。
触れ合ったままの二人から体を離しズンズンと先を歩くと、傘がないからか慌てた声が背から聞こえた。
それでも俺は立ち止まることをしない。
だってまだ肩の震えがおさまらないから。
こんな顔、二人には見せられない。
第六話 完
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