シロクロデイズ〜seventh day〜
とは言わずに拾った鞄を渡し、動かない赤嶺をそのままに二人で教室を目指す。
「そういえば今日雨降ってますけど、先輩どこで昼食べます?」
「あー、特に決めてねえな」
「なら俺たちと一緒に食べませんか?」
突き当たりの分かれ道、三年生の先輩の教室は一階に、二年生の俺たちの教室は二階にあるため階段を上らなければいけない。
だから先輩とはここで別れることになる。
そのため俺たちはその突き当たりで立ち止まったまま会話をしている。
「いいのか?」
「もちろん、先輩なら歓迎しますよ。俺たちいつも二階の一番端の空き教室で食べてるんで」
『先輩も来てください』と続けるつもりだったが、いきなり背中に飛びかかってきたものに驚き言葉が途中で切れる。
「なになぁに、なんの話ぃ?」
「……先輩、やっぱり二人だけで食べますか」
「えー! ちょっと、また白柳贔屓!?」
「冗談だから耳元で叫ぶのやめてくれ」
耳キーンってなるから。
一週間ぶりの授業は全くわからなかった。
俺ってこんなに頭悪かったか? と自分で自分にビックリしてしまった。
しかしなにを言ってるのかわからない教師の声はなんでこんなにも眠気を誘うのか。
チラリと、右隣の席の赤嶺を見てみると彼はノートも出さず、代わりに涎を出しながらすでに眠っていた。
ときおり、教師が赤嶺の名前を呼んだりしているが起きる気配は全くない。
(図太い神経だな)
小さく笑いながらそんなことを考え、大きなアクビをこぼしてから腕に顔を埋めてしまった俺もなかなかのものなのかもしれないけれど。
そうしてほとんどの授業を寝て過ごしてしまった俺たちは今、売店にいる。
だが俺は財布を片手に売店から少し離れた場所で立ち尽くしている。
いや、こうして立ち尽くしてしまうのも仕方がないと思う。
(人、多すぎだろ……)
まるでタイムセールに群がっている主婦のように、目を血走らせながらパンを購入している様子にげんなりしてしまう。
あんパンしか残らないだろうけど待つか、と壁に寄りかかった瞬間。
「はーい、みんなちょっとごめんねぇ。俺たちにも選ばせて欲しいなー」
赤嶺が手を叩き、言葉を続けながら人混みに近づいていくが退ける人はいない。
叩いていた手、足の動きをとめて数秒。
突然、赤嶺の手が近くにいた人の肩を掴んだかと思うと、なにかを耳元で囁いた。
その瞬間、囁かれた人は顔を真っ青に染めながら売店から離れた。
その様子を赤嶺は満足そうに、そして次々と同じことを繰り返していったかと思うと、あんなにも売店の前にいた人たちは今、花道をつくるように綺麗に並んでいる。
「クロちゃん、空いたからパン買おー」
そしてその花道の一番向こう側には満面の笑顔を浮かべている赤嶺が手招きしている。
俺にこの花道を通れというのか。
こんなことなら人混みに混ざるべきだった、と深く溜め息をこぼしながら足を一歩、踏み出した。
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