シロクロデイズ〜seventh day〜






 なんとかパンを買うことができた。
 あんなにも痛い視線を浴びながらパンを買うなんて、きっとこれから先はもうないんだろうなと思う。
 いや、もうないことを願いたい。


「クロちゃん、今日もいつもの場所でいい?」

「二階の空き教室だろ?」

「もっちろーん」


 階段を上り終え、騒がしい教室をも通りすぎ空き教室の前へ。
 目の前のドアを開き中を覗き込むと、すでに一人の男子が未だ雨の降り続いている窓の外をぼんやりと見つめていた。
 その儚げな表情が不覚にも、とても綺麗だと思った。


「あっれー、なんで白柳がここにいんの?」

「ん……ああ、そういえば言ってなかったっけ」


 赤嶺の声、白柳先輩がこちらに顔を向けたことによって我に返った俺は室内に足を踏み入れながら言葉を続ける。


「朝に俺と先輩が話してただろ。二人だけで食べますかーって」

「ああ、それって昼飯の話だったんだぁ」

「そういうこと」


 赤嶺が納得したことがわかれば、すでに椅子に座っていた白柳先輩に向かい合うように机を挟んでの椅子に座った。
 左は窓、向かいは先輩、右は赤嶺という図だ。


「あ、先輩これあげます」


 買ってきた昼飯の中から一つだけ手に取っては先輩へと差し出す。
 すると彼はお礼の言葉を口にしながらそれを見た。


「おにぎり?」

「はい。この前一緒に食べたとき落としちゃって、結局スズメに食べられちゃったじゃないですか」

「……そういえばそういうこともあったな。なら俺からはこれやるよ」


 受け取ってもらえたことに口元が緩んだのもつかの間、逆に手渡されたものを見てみると、それは牛乳だった。


「前それ飲んでたから好きなのかと思ってな」

「ありがとう、ございます。飲み物買い忘れてたんで助かります」


 そう二人で笑い合っていると、横から視線を感じたため目だけを向けてみる。
 と、ジト目で俺と白柳先輩を交互に見ている赤嶺がいた。


「……二人とも、俺の分はないんだぁ?」

「花道なんかつくったお前に奢りたくない」

「花道?」

「クロちゃんのバカー! 買い忘れた飲み物買ってくるから二人なんかイチャイチャしてればいいんだぁ!」


 なんて、泣き真似をしながら教室を出ていく赤嶺の後ろ姿を見送ったあと、俺たちは顔を見合わせ笑ってしまった。


「なんか最近、赤嶺変わりましたよね」

「黒滝もそう思うか?」

「はい。なんかこう、表情が豊かになったっていうか、前はなに考えてるのかいまいちわからなかったんですよ」

「ああ、それはあったな」

「だから、赤嶺のことがもっとわかるようになったことがすごく嬉しいんです」


 赤嶺が出ていった、わずかに開かれたままのドアを見つめていると、頭に優しい温もりが。
 それは俺の頭をしばらく撫でていたかと思うと耳に触れ、そして離れていった。

 触れられた耳がくすぐったい。


「黒滝、今日誘ってくれてサンキューな」

「いえ、別にそんな、気にしないでくださいよ。俺がただ先輩と食べたかっただけですから」

「誘ってくれたおかげで話す決心がついた」

「話す決心、ですか?」


 一体なんの話だろうか。
 売店で買ったカツサンドの封を開けながら聞き返すと、彼の顔が窓に向けられたことがわかる。
 封を開けたカツサンドを手に、なんとなしに顔を上げた俺は息を呑んだ。


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