シロクロデイズ〜seventh day〜
結局、昼飯を食べることもできないまま五時間目の授業を受けている。
といっても俺は腹が鳴らないように両手で押さえながら丸まっているため、教師の言葉なんて耳に入ってないわけだけれど。
(腹減りすぎて気持ち悪くなってきた)
これも全部、赤嶺のせいだと睨むように隣へ顔を向けた俺は目を大きく見開いてしまった。
予想外だった。
いや、確かにさっきからなんかいい匂いがするなとは思ってたけど。
でもまさか授業中にパンを食べるなんて。
そんな俺の視線に気がついたらしい赤嶺がこちらに顔を向けたかと思うと、満面の笑顔で一本のバナナを差し出された。
しかしそれを受け取る気になれないのは赤嶺の日頃の行いのせいだろうか。
これが白柳先輩なら素直に受け取っていた。
なんてことを話したらまた、白柳贔屓って言われてしまうんだろう。
「……サンキュ」
躊躇しながらもそれを受け取っては、隣から赤嶺の視線を感じながら皮の剥いたバナナを頬張る。
その瞬間、隣からの視線がさらに熱っぽくなったことに気がつくが、そちらに顔を向ける勇気はもうない。
「クロちゃん、美味しい?」
「まあ、バナナ好きだしな」
「そのバナナ美味しい?」
「……美味いけど」
「俺のバナナ――」
「だぁあ、それはもういい!」
この男は相変わらずだ!
残ったバナナを皮を赤嶺の顔面に投げつけながら声を張り上げると、辺りに静けさが訪れる。
その瞬間、授業中だったことを思い出し顔を前方へ戻す。
すると予想通り、教師の顔がこちらに向けられていた。
次に教師の口から放たれる言葉も予想できる。
「黒滝と赤嶺、廊下に立ってなさい」
「……はい」
「やったー」
なぜそこで喜ぶ。
教室を追い出された俺たちが真面目に廊下に立っているはずもなく、下駄箱へ向かう俺の後ろを赤嶺がついてきている。
「クロちゃん、どっか行くのー?」
「んー、シロに会いに行こうかなってさ」
「本当、クロちゃんってあの人が好きだよねぇ」
「ん、大好きだ」
「……らぶ?」
飲んでいた、白柳先輩からもらった牛乳を吹き出しそうになった。
慌てて、無理やりそれを飲み込んだら気管に入ってしまい、咳き込んでしまったわけだけれど。
「なに、言ってんだっ。ラブじゃなくてライクだから。変な勘違いするなよ」
『あの人に失礼だろ』と言葉を続けながら手の甲で口元を拭いつつ、中身のなくなった牛乳パックをゴミ箱へ放る。
なにやら赤嶺が意味深な笑みを浮かべていたけれど、なんとなくこれ以上この話題には触れないほうがいいかもしれない。
「ほら、赤嶺も来るんだろ?」
「俺も一緒に行っていいの?」
「なに今さら遠慮してんだよ」
「えー? だってクロちゃんとあの人との愛の巣に――」
「お前、はっ……!」
思わず赤嶺の腹を殴ってしまったが、許されると思う。
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