シロクロデイズ〜seventh day〜
どこをどう走ってきたのか、覚えていない。
今、自分自身がどこにいるのかもわからない。
ただ無我夢中だった。
「し、ろ」
雨が冷たい。
傘をさしている人たちが俺を周りを避けて歩いているが、そんなことどうでもいい。
「シロ……シロ、シロッ!」
なあシロ、なんでだよ。
金久保のことだって赤嶺のことだって覚えてるのに、なんで俺のことだけ覚えてないんだよ。
俺の名前を呼んで欲しかったのに。
笑いかけて、欲しかったのに。
「……なんで」
雨じゃない熱いものが頬を伝っている。
それが涙だということには気づいてはいたけれど、すでにびしょ濡れの俺には拭う気力も起きなかった。
その場で座り込み、膝を抱えて丸くなる。
「俺、どうすればいい」
「とりあえず俺に話してみれば?」
聞き覚えのある声。
俺の体を打ち付けていた雨がやんだことに顔を持ち上げると、手にしている傘を差し出している見覚えのある顔が。
こんなどんよりとした雨の中でも青い髪は目立っていた。
「その前に風邪引かないように風呂だね。おいで、ここからなら俺の家近いから」
「……俺のこと、ムカつくんじゃないのかよ」
「もうそんな感情ないよ。むしろ君なら歓迎する」
差し出される手。
その手と男の顔を交互に見つめ躊躇した後、俺はゆっくりと震えている手を重ねた。
三年前の冬に姿を消したあの人にやっと出会えた。
そして意識を取り戻したかと思うと、それは最悪の形だった。
どうして。
どうして。
なんで俺のことを忘れたんだよ。
あれから三年。
今、泣きそうな顔をしているのは俺だった。
〜第一章〜 完
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