シロクロデイズ〜青木葉 宗慈〜


 短く息を吐き出してから手にしていたスウェットを床へと放っては、眠っている黒滝くんへと近付きしゃがみ込む。
 手を伸ばし、痛みのない真っ黒な髪を撫でてやると、くすぐったそうに身を捩る彼の反応にゾクリ、と覚えのある感情がわき上がる。
 髪を撫でていた手を滑らせるように頬へと移動させては、親指の腹で下唇を撫でてみる。
 わずかに乾燥している唇にそっと自分自身のを重ねてみるが、起きる様子はない。
 顎に手を添え、口を開かせてやればその口内へと自分の舌をねじ込み、彼の舌を絡め取る。
 息苦しいのか、小さな声を鼻からもらしたかと思うとようやく目を開き、その黒い瞳の中に俺の姿をうつした。


「あお……」


 まだ状況を把握できていないのか、眠そうな目で俺を見つめている彼の下半身へとのしかかれば、着ているスウェットの裾を胸上まで勢いよくまくり上げる。
 その瞬間、ようやく目が覚めたのか慌てたように俺の名前を呼ぶ声が聞こえたが動きをとめることなく、現れた素肌、脇腹に唇を寄せては噛み付いた。


「いッ! ……ちょ、青木葉さん!」


 体を引き剥がそうと俺の肩に触れる手に力は込められているものの、俺を離せるほどではなく唇をさらに上へと移動させれば、今度は胸下へと噛み付き歯形を残す。


「青木葉さっ……青木葉ッ!」


 勢いよく顔を持ち上げられた。
 いつの間にか肩に触れていた手が離れていた。
 黒滝くんの、今にも泣きそうな表情が視界に入る。


「……なんで、泣いてるんだよ」


 そう言葉を放ったのは、俺ではなく黒滝くんだった。


「……え?」

「泣きたいのは、こっちだっつーのに」


 動きをとめた俺の頬から手を離したかと思うと、そのままその腕で自身の顔を隠した。
 わずかに声が震えていたのは、きっと気のせいなんかじゃない。

 体を起こし、彼の放った言葉になんとなく目元に触れてみると確かに濡れていた。
 そして目の前には乱れた格好の黒滝くんが。
 その瞬間、苦しくなるほどに胸が締め付けられた俺は両腕を伸ばし、彼の上半身を起こして強く腕の中に体を閉じ込めた。
 腕の中で驚いたように彼が体を震わせたことに気がつくが、離す気なんてさらさらない。


「どう、したんだよ」

「……俺と同じだって、君は言ってくれた」


 数秒の沈黙、なんのことかわかったのか腕の中で彼は小さく頷く。


「……でも、君には仲間がいる」

「仲間なら青木葉にだって──」

「違う」


 言いかけている途中でそう放った俺の言葉をどう思ったのか、言い返すこともせず彼は口を閉ざした。


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