シロクロデイズ〜青木葉 宗慈〜
夕飯を食べ、風呂に入り、黒滝くんは寝室へと戻っていった。
その後ろ姿を見送った俺は、ソファへ腰を落ち着かせたまま深い溜め息をこぼし天井を仰ぐ。
黒滝くんは自分のことを強くない、と言っていたけどそんなことはない。
充分強くて、充分大人だ。
それに比べて俺はどうだ。
自分に大切な人がいないからと、大切な人がいる人に嫉妬して脅して。
それなのにその行動を起こしてくれたチームの中の一人も名前を知らない。
大切な人がほしいと思っていながら、親しくならないように壁を作っていたのは俺のほうじゃないか。
「……このままじゃ、駄目だな」
呟いた声は闇の中に吸い込まれていった。
────
次の日、目を覚ました俺は体を起こし乱れた髪を整えるように掻き上げ、大きなあくびをこぼしながらテーブルの上に転がっていた携帯を手に取る。
するとどうやらメールが届いていたらしく、開いてみると内容は昨日と同じく『チームを抜ける』、というものだった。
「……ごめん」
もう顔を見ることのできないメールの相手を思っては謝罪の言葉を口にする。
そしてしばらくそのメールを見つめては、深い溜め息をこぼしながらホーム画面へと戻りアドレス帳から宇緑の名前を探し、通話ボタンを押す。
五コール目で繋がった宇緑の声は少しだけ眠たそうだった。
「宇緑、朝早くからごめんな」
『用件は』
「今残ってるメンバーを収集して欲しい。時間は二時、いつもの場所で」
『りょーかい』
宇緑のことは信用ならないが、こういうときは本当に役に立つ。
いや、本当はこういうことも俺がやらなきゃいけないんだろうな。
そんなことを考えながら携帯で今の時刻を確認しては、二時までにまだ五時間以上もある。
もうひと眠りするか、と携帯をテーブルへ戻した俺はなんとなしに寝室へと顔を向けた。
まだ眠ってるんだろうか。
まだここに、いてくれてるんだろうか。
期待と不安を入り混ぜながら腰を持ち上げ、音を立てないよう寝室へのとびらを開いてみると、窓際のベッドがこんもりと盛り上がっていた。
そのベッドの横まで歩いてくればしゃがみ込み、顔を覗き込んでみると、口をわずかに開きながら小さな寝息を立てている黒滝くんがいた。
場所はソファとベッドで違うけれど、昨日と同じ状況。
だからといってここで黒滝くんを犯そうとするような真似はしない。
「黒滝くん……」
彼のやわらかな頬へと手のひらを滑らせては、触れるだけの口付けを落とす。
すると彼は短い声を上げながら寝返りを打ち、俺に背を向けてしまった。
起きてたわけじゃ、ないと思うけど。
再び大きなあくびをこぼしては、黒滝くんが寝返りを打ったためできた隙間を見つめてからそこへと体を滑り込ませた。
腕を彼の腹へとまわし、俺の腹と彼の背中を密着させる。
そうしたことで伝わってくる人のぬくもりに表情を緩めながら俺は目を閉じた。
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