シロクロデイズ〜青木葉 宗慈〜






 体を揺さぶられる感覚で目を覚ました。
 ゆっくりと重いまぶたを持ち上げてみると、わずかに眉間にシワを寄せた黒滝くんが俺の腕の中にいた。
 そのことに、寝起きだというのに微笑んでしまった。


「……なに笑ってんだよ」

「いや、黒滝くんが俺の腕の中にいて幸せだなーって」

「なに言ってんだか」

「そういえば今何時?」


 俺の体を無理やり引き剥がすことをしない彼にすり寄りながらそう尋ねてみると、壁に掛けられている時計を見たであろう彼が『一時』と告げた。
 その言葉に黒滝くんの体を抱きしめていた腕をほどき、勢いよく体を起こし自分自身でも時刻を確かめてみると確かに一時をまわっていた。


「なにか、あったのか?」


 どこか不安げに俺の顔を覗き込んでくる黒滝くんを安心させるため、笑ってみせる。


「二時からちょっとね。帰ってくるのは夕方くらいになるかも」

「どっか行くのか」

「うん。あ、冷蔵庫のは勝手に食べてもいいから」


 声をかけながらベッドから下り、髪を撫で付けながらタンスから黒のシャツ、ジーンズを取り出せば着ていた紺色のスウェットを脱ぎ着替え始める。


「青木葉さんはなにも食わないのか?」

「時間ないからね」

「……作っといてやろうか」

「えっ」


 予想外の言葉が聞こえ、ジーンズのファスナーを上げながら思わず黒滝くんを見てしまうと、彼は俺から顔を背けていた。
 手首にはめていたヘアゴムで髪を一括りにしながら顔を背けたままの彼へと近付いては、その腰へと腕をまわす。
 そうすると彼は驚いたように勢いよくこちらへと顔を向けてくる。
 そんな彼の唇へと自身のを重ねると、体を押し退けられてしまう。


「昨日からなんだよ、欲求不満なのか?」

「……うーん、黒滝くんだからだと思うけど」

「…………いや、頼むからそれ以上なにも言うな。聞いた俺が悪かった」


 ベッドの上で頭を抱えた黒滝くんに口元が緩んでしまう。
 それはきっと俺が彼のことを気に入っているからで。
 今まで誰にも抱いたことのない感情に複雑だけれど、とても心地がいい。

 そんな彼から視線を外し時計を見ると、あれからすでに十五分が過ぎていた。
 脱ぎ捨てたスウェットを手に部屋から出ようとすると、背後から慌てた声が聞こえた。


「行く前に、好物だけ教えて欲しい」


 ドアノブに触れたまま顔だけを黒滝くんへと向けると、彼は俺から顔を背けたまま、それなのに視線だけは俺に向けたままそんなことを聞いてきた。


「和食が好きかな」


『作るの大変だけどね』と続けながらドアノブをまわし、部屋を出ては自然と浮かぶ笑みを抑えることもせずにスウェットを洗濯機へと放り込み、部屋を出た。

 未だに大粒の雨が降っていた。
 一体いつから降ってたっけ。
 そんなことを一瞬だけ考えるが、すぐに思考はこれからあの場所でのことに移り変わる。

 ケジメをつけるんだ。
 自分自身のためにも。
 俺を信頼してくれてるみんなのためにも。


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